大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(う)2525号 判決

被告人 高山良造

〔抄 録〕

記録を調査し、当審における事実取調の結果を検討すると、被告人がその運転中の普通乗用自動車(以下単に「本件自動車」という。)を原判決の春山初太郎に後方から激突させた場所は、幅員七・五八メートルの直線で平坦なアスフアルト舖装の施された国道第五〇号線上であつて、路面に亀裂、くぼみ等の凹凸部はなく、付近一帯には外灯、人家等がないため当時真暗に近かつたが、運転上何ら支障を生ずべき障害物はなかつたこと、被告人が右現場付近の道路上を運転したのは初めての経験ではなかつたこと、被告人は対向車のライトに眩惑されたため前記春山初太郎の姿を目撃してはいないが、「カクン」というシヨツクを感じ、通行人に衝突したかもしれないと思つて直ちに本件自動車を停車させ、乗車したままブレーキランプと尾灯の明りを頼りに後方を見たが、前記春山初太郎は前記道路左側一・三メートル下方の田圃上に転落していたため発見することができないまま、現場より発進して帰宅したこと、本件自動車には右春山初太郎乗用の自転車と激突したため、左前フエンダー前照灯直下の地上より高さ〇・六八メートルの位置に長径二〇センチメートル、短径八センチメートルの範囲にわたり深さ一・五センチメートルの凹損部、左前フエンダー横側の地上より高さ〇・五四メートルの位置に長さ二四センチメートル、幅一五センチメートル、深さ一センチメートルの凹損部、前バンバーの左端より二四センチメートルにわたつて幅二センチメートルのメツキ離脱等の損傷が生じているほか、左フエンダーミラーが根元より四センチメートルの箇所で折損して被害者の死体の付近に飛んでおり、ラジオアンテナがフロントガラス側へ根元より折れ曲つてしまつていたこと、前記現場付近の路面には右自転車のペダルないしスタンドが路面に接触したために生じたと認められる擦痕があつたこと、前記春山初太郎の死体には右腎部に小豆大で深さ約二センチメートルの裂創のほか、右腎部より右下肢部にかけてほぼ連続した擦過傷がみられるが、右擦過傷は右春山の身体または自転車が本件自動車に残留されたまま引きずられたために生じたものと認められることがそれぞれ明らかである。これらの事実関係に徴すると、被告人は、原判示第二のように、前記春山初太郎に本件自動車を追突させた際、「ガクン」というシヨツクを感じ、人身事故を惹起したかもしれないことを認識したのに、この認識を払拭するに足りるだけの確認をしないまま、漫然と「大した事故ではあるまい」と思い込んで、救護等の措置をとらなかつたことを十分に肯認することができる。被告人が本件自動車に乗つたまま後方をみたが、何も事故発生を窺わせる状況を認めなかつたのでそのまま事故現場より立ち去つた旨の供述は、被告人が感じたシヨツクの程度、本件自動車の損傷状況等前説示のような事実関係に徴し、人身事故を惹起したかもしれないとの認識が右の程度の確認措置で全く払拭されたとする限度において信用することができないし、被告人の当時の酩酊の程度や被告人の性格、被告人が帰宅して本件自動車の損傷状況を現認したのち現場付近に立ち戻り、被害者を発見するに至る前後までの経過だけをもつてしても、右認定を左右するものではない。してみると、本件公訴事実中救護義務(道路交通法第七二条第一項前段)違反の点につき、犯意の証明が十分でないとして無罪の言渡をした原判決は、結局、証拠の価値判断を誤り、延いては事実を誤認したものというべく、この事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

(三宅 石田 西村)

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